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《逝きし父へ》 2011-7-06 Wed.  [雑感]

6月7日、朝8時25分、父は逝った。
米寿を迎えて間もなくだった。
母の時は“亡くなった”と書いたが、今回は“逝った”と思える。

昨年、正月、父は年賀状の宛名がうまく書けなくなっていた。
それから次第に好きだったテレビも何を言っているのか理解が難しくなっていった。
お金の勘定もできなくなっていった。
電話もかけられなくなった。
できないことが、少しずつ、少しずつ、増えていった。
そして7月、現実と夢の間をさまようようになった。
大好きだった父の笑顔が、消えていった。
どうすることもできない。ただ見守るしかなかった。
不治の病、不慮の事故や天災に逢わずとも、人は老いて死に向かう。

今年5月、うららかに晴れた最後の日曜日、その日が父との別れになった。
もはや食事も取れなくなって、顔も体も一回り小さくなり、
足や腕は枯れ枝のように細かった。
手を握り、足をさすり、おでこを撫でる。父は何も言わず、どこか遠くを見ていた。
もう俺がわからないのかなあと寂しい思いで病院を後にした。
しかし一緒に行った家人によれば、病室に入った時、
父は私を見て涙目になっていたという。
それを聞いて少し救われた気がした。ごめんな、気がつかなくて。
会うたびに変わり果てていく父を、私はちゃんと正視することができなくなっていた。

父が逝ったのは、その1週間後。母と同様、死に目には会えなかった。
でも、穏やかな気持ちで受け止めることができた。
子供も、孫も、ひ孫も、全員元気なうちに見送れたのだから。

葬式を無事終え、父と母が暮らした家に集まった。
両親、祖父母、曾祖母の写真がずらりと並んだ仏間で、お参りをした後、
アルバムを引っ張り出し、父や母の若い頃、我々兄弟の小さい頃の写真を眺め、
笑いこける孫たち。思い出話に花が咲く。
そんな様子を眺めていた姉が、この家を、このまま、できるだけ残すと言った。
感謝!私にとって、両親の家こそが故郷なのだから。

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母が亡くなって1週間後、父は、こんな文章を書いた。

 今度ほど皆の愛情を知らされたことはありません。
 お母さんのおかげで、みんなが集まって暮らしたこの一週間、
 本当に嬉しく夢のようです。
 本当にありがとうございます。今、唯一の願いは身体を大切にして、
 今回お母さんを見送ってくれたように私もお願いしたいということだけです。
 他のことは何もありません。
 私より先に死んではいけません。
 私らは小さい時から極楽、地獄は先の話ではない、
 今現在救われているかどうかが大切だと教えられました。
 お母さんは「今死んだら一番幸福です」とよく言っていた。
 おそらく喜んで浄土に行ってくれたことでしょう。
 苦しい時があっても、母はこんな時どう思っていたかを考えてくれたら
 間違いありません。私の願いも同じです。
 みんな身体を大切にして、機会があれば又集まってください。
 本当にいろいろの心遣いありがとう。
 ありがとうございました。            
                     平成16年12月5日 午前5時、記す


オヤジさん。
我がままで、好き嫌いが激しくて、情にもろくて、子供っぽくて、
憎めない人だったオヤジさん。
あなたを思い出すと笑うことが多いです。これは幸せなことですよね。
母が亡くなってから6年半、寂しかったろうし、つらかったろうけど、
よくがんばって生きてくれました。
特に最後の1年間、次第に自分の意志では動けなくなっていく中で、
あなたがどんな思いでいたのかを考えると、胸が張り裂けそうです。
でも、老いてゆくあなたを見つめながら、
私は、たくさんの大切なものを受け取りました。
本当にありがとうございました。
今頃は、おふくろさんに、また怒られていますかね。もう寂しくはないよね。



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コメント 2

miminaga

遅ればせながら。お父さまのご冥福を心よりお祈りいたします。
文章を拝見していて、お父さまへの深い愛情が感じられて胸がしめつけられるようでした。
私の両親はもうずっと前に旅立ちましたが、会えなくなってからの方が、その存在を身近かに感じるものですよ。

ベスチャトーのお庭にも、又いらしたのですね。


by miminaga (2011-07-14 07:15) 

fukug

miminaga さま

ありがとうございます。

「会えなくなってからの方が、その存在を身近かに感じる」
本当にそうですね。

今週末、四十九日で、また家族が集まります。
父や母が残したものを大切にしていきたいと思います。

by fukug (2011-07-14 12:30) 

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